「どうして、点滴の量増やしたりなんてしたんですか」 
そう聞いた途端、彼女はグミを食べる手を止めた。
「何のことですか?」
「自分でやったんですよね?」
彼女は俯いたまま何も言わなかった。
「ごめんなさい。聞いちゃいけなかったのかもしれないですけど、何でか気になって」
俺はなんとか彼女から理由を聞き出そうとした。だってもしこのまま彼女を放っておいたら、同じことをしかねないから。
「いつもすごい元気だったし、突然のこと過ぎてびっくりして」
すると彼女は、こんな俺に呆れたのか口を開いた。
「ご心配をお掛けしたことはすいませんでした。あの日、陽介さんが見舞いに来たのは想定外だったんです」
「想定外…というのは…?」
「本当はあの日の前日に陽介さんが来る予定だったけど、急遽日にちが変わったじゃないですか。あの日は父の命日だったから、自殺も考えていたし、日曜日の昼間の時間帯は、看護師さんも先生もみんな他の棟で巡回しているんです。だから、死にやすいかな、って思って」
「だけど運悪く俺が来てしまった、と…」
「そうです、だから絶好のタイミングを逃しちゃって。不幸にも生きているわけです」
彼女はまるでドジなことをしたかのように笑った。俺はその彼女の笑みとは裏腹に、もし俺があの日見舞いに行っていなかったら、と思うと怖くてたまらなかった。