朗らかな秋晴れだが、この秋晴れが鬱陶しいと思うほどに、俺はとても重い気持ちでいた。先週、苦しむ彼女を見て以来、結局彼女との連絡は取れていないし、もしあの病室が、誰もいないすっからかんな病室になっていたらどうしよう、なんて悪いことばかり考えていた。

彼女の病室の前に立つと、中からメガホンを叩く音が聞こえてきて、俺の目には涙が浮かんだ。よかった。元気になったんだ。溢れ出る涙を引っ込ませて、俺はドアを開けた。 
俺の目の前には、必死に野球観戦をする彼女の姿があった。酸素マスクはつけたままだけど、今までと変わらない、元気で明るい真結さんだった。
「あ! 陽介さん! 今日の試合勝ちそうなんですよ! 3点差であと9回の裏抑えれば勝てます!」
「よかったです…ほんとよかった…」
「ほんとよかったですよ! これでやっと魔の10連敗から抜け出せます…って陽介さん? どうして泣いているんですか!?」
俺の目からは涙が溢れていた。
「すいません、元気そうな真結さん見たら安心して」
「あ…その節は大変ご心配をお掛けしました…もう元気なので、全然大丈夫です」
彼女は親指を立てて自慢げな顔をした。俺が胸を撫で下ろすと、ちょうどその時、相模シャイニーズが勝利をあげていた。
「やった! やった! やっと勝った〜!!」
両手を上に挙げて見事にバンザイをする真結さんは、本当に今までと変わらず元気に笑っていた。体調も良さそうに見えるから一安心だ。
「あ、すいません、陽介さんほったらかして私だけ盛り上がっちゃって」
「あ、いやいや。真結さんが一人で盛り上がってるの、見てて楽しいので」
彼女はえへへと笑った。俺もその笑顔につられて微笑んだ。
この時の俺は、元気になった真結さんを前にして完全に安心しきっていた。そのせいで、彼女の笑顔が、無理に作られたものであったことに、気付くことが出来なかった。