俺の昔話をしていると、気付けば花火は残り2本だけだった。
線香花火。勢いよく火を吹く花火も好きだし、夜空に打ち上がる大きな花火も好きだけど、俺はやはり線香花火が一番好きだ。パチパチと音を立てて火花が散る。やがて静かになり火も消える。
「終わっちゃいましたね…」
彼女が寂しそうに火の消えた線香花火を見つめる。
「楽しい時間ってほんと一瞬ですよね…苦しい時間は長いのに」
そう呟いた彼女の表情はとても切なく寂しげであった。そんな彼女を見て俺は思わず口を開いた。
「俺、花火の中で一番線香花火が好きなんです。昔から大好きな小説に『線香花火のごとく生きなさい』っていう名言があって。線香花火は短い命でも精一杯火花を散らして輝いていて、人生も長いようで短いから毎日精一杯輝きなさい、って意味が込められているんです」
彼女は突然語り出した俺に驚いている様子だったが、俺は構わず続けた。
「俺達には限られた時間しか与えられていない。もちろん、辛い時もあれば楽しい時もある。だけど、辛いと楽しいって表裏一体だと思うんです。楽しいことから何か一つでも無くなれば辛くなる。辛いことに何か一つでも加われば楽しくなる。だから苦しい時も、ちょっと笑ってみたら少しは気持ちも楽になるかもな、なんて思ったり」
「少し笑ってみる…ですか」
「あ、これ、ちなみに俺の友達が言ったこと丸パクリしました。俺が怪我して落ち込んでた時、そいつがいつも励ましてくれたから、俺は少し前を向けたんです」
「素敵なお友達ですね」
「面白い奴ですよ。今度連れて来ましょうか? 真結さんを励ませって。あーでもあいつうるさいからなー」
俺がそう言うと真結さんは少し笑った。
「私には陽介さんがいるから大丈夫です」
俺が女子に初めて頼られた瞬間だった。気づけば俺の心臓はドクドクと音を立てていた。