俺がそんな記事を見つけたことに気づいて彼女はまた話し始めた。
「オリンピックにだって出るはずだったんです。でも、練習中に突然…死んじゃったんですよね」
彼女は真っ直ぐ空を見つめたまま、視線をどこにも移さなかった。
「それは…どうして…」
聞いていいことなのか。いや本当は聞いちゃいけないことなのだろうけど、俺は聞かずにはいられなかった。
「死因は、アナフィラキシーショックによる溺死と言われました。でもどうしてアナフィラキシーショックが起きたのか、わかっていないんです」
俺は彼女の父の死を考察するサイトを開いてみた。
『体中の発疹や、外傷が無いことからみて、アナフィラキシーショックだと診断されることは不思議ではない。もちろん、彼に持病があることは公表されていない。しかし、クラゲ等の生物の影響でも、食べ物が原因でもないとされた。それは、それらが原因である証拠が何一つとして出てこなかったからだ。では、彼の身に一体何が起こったのだろうか。ここで1つ気になることは、その日彼が練習していた海岸では、他の海より少し高い塩分濃度であったことだ。』
俺はその記事を読んで、彼の突然死の真相がわかったような気がした。と、同時に彼女が口を開いた。
「私は、父も塩アレルギーだったんじゃないかと思うんです」
彼女の視線には一瞬の揺らぎもなかった。