家に帰って俺は、すぐに『塩アレルギー』について調べた。
塩アレルギーはその名の通り、塩分に対するアレルギーで、世界で数十例しかない奇病だという。軽度であれば、日常生活にほとんど不自由がなく、少し体調が悪くなる程度であるが、重度では食事1つが命取りになってしまう。摂取塩分量が制限されるため、1日に必要な塩分量を摂取出来なくなってしまうと、生命維持に直接関与することもあるそうだ。ミネラルが不足し、体調を崩したり免疫力が低下したりするため、重度の場合、10年生存率は僅か20%。もちろん、未だ原因も治療法も確立していない。
色々調べていると、やたら長い論文が出てきて、頭が痛くなってきたのでページを閉じた。だけど、『塩アレルギー』という言葉はずっと俺の頭の中を回っていた。
今考えてみると、彼女の部屋が整い過ぎた空調設備だったのも、ゼリーをあげた時に彼女が暗い顔をしたのも、全て『塩アレルギー』のせいだったのだろう。きっとあの日、彼女が俺の前で倒れたのも、彼女が俺の汗の滲みた野球帽を拾ったからなんだ。
だとしたら、なぜ彼女は塩アレルギーでありながら、俺の帽子を拾ったりなんかしたんだろう。
不思議に思った俺は、彼女にメールを送ってしまった。
[あの、気になったのですが、なぜ俺の帽子を拾ったんですか。塩アレルギーなら拾わない方が良かったのでは]
これであとは彼女からの返信を待つだけ。俺はメールの画面をぼんやりと眺めていた。
今日叶汰から聞いて初めて知った彼女の病名。彼女から塩アレルギーのことは一切聞かなかった。俺には秘密にしていたのだろうか。だとしたら……
俺は自分が送ったメールを見返した。もし彼女が俺に病気のことを秘密にしているのだとしたら、俺が塩アレルギーの話をするのはあまりにも無神経ではなかろうか。彼女を傷付けてしまうかもしれない。俺はすぐにメールを削除した。