彼女の病室に入ると、さっきまであんなに暑かったのに、体がぶるっと震える。彼女は外を眺めていたが、俺が来たことに気づくとにっこりと笑った。
「あ、こんにちは。来てくれたんですね」
「こ、こんにちは。あの…名前って…」
人と話すことが下手過ぎて、脈絡のない質問になってしまったが、それでも彼女は微笑んだ。
「そういえば言ってなかったですね。広崎真結(ひろさきまゆう)です」
「あ、えっと…俺は佐竹陽介です」
「陽介さん。覚えました」
『陽介さん』そんな風に呼ばれるのは恐らく初めてであった。女子から下の名前で呼ばれると、なんだか少しむず痒くなる。
「あ、そうだ!メール繋ぎません?」
慣れない下の名前呼びに俺が動揺していると、彼女は閃いたように新たな提案をしてきた。
「メ、メールですか?」
ほぼ初対面の人とメールを交換できるほど、俺は陽キャではない。
「そ、そんな驚きますか?ただ…何となく付き合うならメールとかも交換したほうがいいかなって思ったんですけど…」
メールを交換すると言うだけで驚く俺に驚く彼女。これはもう生きてる世界が違いすぎる。それとも女子ってみんなこんなもんなのか?女子はみんなメール交換から関係がスタートしていくのか?
「せっかくだし交換しましょ!ね?」
彼女に押され俺は戸惑いながらもアドレスを教えた。
「確認のために送ったんですけど、メッセージ来てますか?」
そう言われてスマホを開くと、
[初めまして。よろしくお願いします!]
というメッセージが表示された。
「ちゃんと来てます」
「良かったです。私たまに間違えて全然知らない人に送っちゃうんですよね」
彼女はてへっと笑った。彼女の笑顔は見ると気が晴れるような、そんな笑顔だった。