――洪武13年――

「秀快、久しぶりだな」

朝議が始まる前、皇太子である大兄(たいけい)が話しかけてきた。

「大兄……いえ、皇太子殿下に拝謁いたします」

「そうかしこまるな。昔のように兄と呼ばれた方が嬉しいからな」

にかっと笑いながら肩を叩いてくる大兄は以前会った時よりも(たくま)しくなったようだ。

大兄は父皇(ちちうえ)の命で、半年ほど杭州(こうしゅう)への視察に行っていた。

「では、身内だけの時は大兄と呼ばせていただきますね」

「ああ、そうしてくれ。そろそろ朝議の時間だ。今度ゆっくりと語り合おう」

主上付き首席宦官の姿が見えたので、二人とも列に戻った。

「主上が謁見(えっけん)をお許しになられました。ただいまより、朝議を行います。皇族、家臣の方々はお入りください」

主上付きの宦官の声に、皆がぞろぞろと入っていく。

「主上に拝謁いたします」

皇帝が座る玉座に向かって、皇族、家臣は膝をつき、頭を深く下げて拝礼した。

「立つがよい」

「恐れ入ります」

主上の許しを得て立ち上がる。

「では、朝議を始める。皇太子よ、杭州の視察の件で奏上していたな」

主上は皇太子が奏上したであろう文を読みながら、詳細を求める。

「はい。一部の地域で朝廷への納税が十分ではないという報告が上がっていたので、調査してみますと役人たちが横領していたようです。さらに、役人たちは横領した銀子(ぎんす)で人を雇い、民たちを脅して税を(しぼ)り取っていました。これは、決して(ゆる)されることではありません」

「うむ。税を納めていなかっただけでも重罪だが、我が民を虐げるなど言語道断である。その役人ら杖刑五十回ののち、流罪にせよ。民には食糧を配布せよ」

「かしこまりました。父皇は英邁(えいまい)であらせられます」