後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に

「いかがなさいましたか、楊静妃さま」

「いずれ、あの二人は自滅するわ」

侍女に尋ねられ、楊静妃は声を高らかにして答えた。あたかも面白い欺劇(しばい)を楽しむ童女のように目を輝かせて。

「二人というのは……王妃さまと喩良妃さまのことですか?」

「ええ、そうよ。喩良妃は(おのれ)の感情が先に出て動くし、普段から徐静妃と郭御華を虐げているでしょ。殿下にばれるのも時間の問題だわ」

「確かに喩良妃さまはいずれ身を滅ぼしそうですが、王妃さまは皆に慈悲深く接しておられますよ」

「馬鹿ね。慈悲深いだなんて芝居に決まっているじゃない。王妃はなかなかのやり手よ。喩良妃を(こま)として操っているのだからね」

「ですが、喩良妃さまは自分勝手に動いているように見えますわ。今日の茶会ででも――」

「それこそ、王妃の狙いよ。自分から動かなくても代わりに悪事を働いてくれて、不用になればいつでも切り捨てられる。そんな使い勝手のいい駒が喩良妃よ。でも、喩良妃がいなくなれば手駒がなくなるから、王妃も同時期ぐらいに自滅するでしょうね」





「勝手に入ってこないでください!」

入り口の方が騒がしいので、玲雲は読書をやめて顔を上げる。

侍女の夏児(かじ)を押しのけて、喩良妃の女官たちがぞろぞろと入り、部屋の中を荒らしていく。

「何事なの?」

「喩良妃さまが殿下からいただいた扇子が盗まれた件で、ただちに探すよう命じられております。どうか、お許しを」

「ありました!」

声がしたのでそちらへ行くと、玲雲の寝台(しんだい)の下からずたずたに破り裂けている状態の扇子があった。

「嘘……」

「だれか、郭御華を喩良妃さまの所へ連れて行きなさい!」

「私じゃないわ!何かの間違いよ!」

「弁解は喩良妃さまの前でしてください。さあ、連れて行って!」