後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に

「阿蘭が行ってから、どれくらい経ったかしら……?」

美凰は片手でこめかみを押さえ、遠い目をしながら呟く。

「3刻ほどです。探して来ましょうか?」

「……いいえ、だめよ」

「美凰さま……」

「お湯の支度をしてちょうだい。それから、侍医も呼んできて」

「かしこまりました……」

美凰はふと窓から外を見ると、雨が降り始めてきた。

しばらく、窓際に()けてある花をぼんやりと眺めていると、利欲が急いで駆け込んできた。

「美凰さま!阿蘭さんが戻ってきましたよ!」

「すぐ行くわ!」

急いで回廊を通り抜け、蘭華門まで行くと、阿蘭が目も当てられないほどの姿で倒れていた。

「阿蘭!阿蘭!」

「み、おう……さま。帰って……きました……よ」

「ええ、よく帰ってきたわ。もう大丈夫よ、安心して……。利欲、阿蘭を湯殿へ運んで」

服が破れているところから皮膚が裂け、血が滲み出ている阿蘭を利欲が抱き上げ、急いで運んでいく。

湯殿の方には宦官は入れないので、利欲は阿蘭を女官たちに運ぶよう指示する。

女官たちが服を脱がせ、身体を洗い、阿蘭を温かい湯船に()からせる。

「阿蘭、体調はどう?」

「美凰さま……申し訳ございませんでした。あ、あんな……態度を取ってしまって――」

「反省したのなら、もう謝らなくて良いわ。それより、この傷はもしかして……鞭や棒で打たれたもの?」

「………はい」

か細い声で答える阿蘭に美凰は表情を曇らせる。