後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に

「と、とても素晴らしいかと……。さすが、喩良妃さまですわ……」

呉御華はあまりの光景に体が震え、真っ青になってしまっている。

「ぐはっ……」

阿蘭が耐え切れなくなったのか、血を吐いた。なお、悪いことに、吐いた血は喩良妃の顔にかかってしまった。

「汚らわしい!私に血を吐くだなんて、身の程知らずにもほどがあるわっ!お前たち、阿蘭を死ぬまで打ちなさいっ!」

喩良妃の剣幕に恐れをなした女官たちは、泣きそうになりながら鞭で打ちつける。

「ふふっ……そうよ、もっと強く、強く打つのよ。この私を怒らせれば死しか待っていないと、皆に知らしめるのよ」

高らかに笑い声を上げる喩良妃。

その傍らで楊静妃が静かに、喩良妃さま、と声をかける。

「たかが奴婢ごときに、そのように激されてはお身体を損ねてしまいますわ。ここは私にお任せください。私は雲南(うんなん)の生まれで、奴婢の扱い方には慣れておりますの。雲南には南方からの移民が流れてきます。そういう者たちの中には、阿蘭のように上の者に対しての敬いが無い輩もおりますわ」

「つまるところ、あなたは私が阿蘭をしつけられないと言いたいのかしら?」

「滅相もありませんわ。ただ――病を治すためには自分からも努力しないといけない、と昔から言いますわ。阿蘭を打ち据えるというのは、自分で行うのが良いかと……。そうしてこそ、私の病も治りましょう」

「確かに、それも一理あるわね。ならば、あなたに任せるわ」

行くわよ、という喩良妃の声で侍女たちは引き上げていく。

「さてと、私の病は治らないでしょうけど、憂さは晴らせそうね」

喩良妃が去ったのを見て、楊静妃は女官たちに棒を持ってくるように命じる。

「お前の主は最低ね。侍女が死にかけだというのに助けに来ず、ぬくぬくと殿舎で過ごしているだなんてねえ?」

「楊静妃さま、少し気分がすぐれないので部屋に戻ってもよろしいでしょうか……?」

「ええ、お戻り。だれか、呉御華を部屋まで送ってあげなさい」

呉御華は去り際に、阿蘭の方をちらと見て口元を押さえる。

「さあ、お前たち。その娘を思う存分、打ち据えなさい」