――洪武10年8月――

美凰が秀快に嫁いで来てから、かれこれ二年が過ぎた。相変わらず喩良妃からの当たりはきついが、秀快からの寵愛は衰えない。

それに、美凰には一歳となった娘の玉英(ぎょくえい)王女がいる。二人には血縁関係はない。なぜなら、玉英は李昭訓が腹を痛めて産んだ娘であるからだ。

李昭訓は昨年の秋頃に燕王府に入り、秀快の第一子となる御子を身籠(みごも)った。秀快も初めての懐妊に喜んでいたが、李昭訓は予定の産み月から二月(ふたつき)も前に産気(さんけ)づいてしまう。難産となり、無事に御子は産まれたものの、李昭訓は亡くなってしまった。

母親がいないのは可哀想だということで、秀快から玉英を養女にするように美凰は命じられた。以来、美凰は玉英に実の子のように愛情を注いでいる。

「美凰さま、玉英郡主は眠られました」

「ありがとう。下がって良いわよ、惢真」

「郭御華さまが挨拶にいらしておられますが、いかがなさいますか?」

「玲雲が?通してあげて」

「かしこまりました」

郭御華は李昭訓と同時期に燕王府に入った女子で、郭寧妃の(めい)である。
名は招熙(しょうき)、字は玲雲(れいうん)。玲雲とは幼い頃から姉妹同然のように仲が良かった。

「郭御華さま!落ち着きください!」

姐姐(おねえさま)っ!」

「どうしたの!?」

部屋に入ってきた玲雲の顔を見て驚く。泣き腫らしたのか、目の周りが赤く腫れあがってしまっている。

「喩良妃さまが、私には似合わないからと扇子を取り上げてきたのです……!」

「扇子って……まさか、母君の形見の?」

「はい………」