王府の中に入ると、めでたいとされる赤で飾られ、金の刺繍糸が織り込まれた装飾布は天界のものかと思うほどの美しさ。
もちろん、部屋の中央には秀快が婚礼衣装に身を包んでいた。

「燕王殿下の命により、名家として品のある徐氏と楊氏を第二位側妃の静妃として冊封する。王妃、良妃によく仕え、宗室に貢献せよ。――以上」

燕王付き首席宦官の声が響く。

「これより、天と地に感謝の意を伝えるため、一拝天地せよ」

一拝天地とは、天のおかげでこの地に生を受けたことをその神々に感謝するために、膝を折って深々と礼をするもので、婚礼儀式の一つである。婚礼儀式には複雑な手順があり、その中でも輿入れ当日が最も複雑である。

「次に、二拝高堂せよ」

婚姻関係を結ぶにあたり、双方の両親に感謝の意を示すために拝礼する二拝高堂。しかし、皇族との婚姻は特殊であり、嫁ぐ側の両親が婚礼に出席することはできない。つまり、今回は燕王の母妃である碽貴妃と父皇である洪武帝にしか二拝高堂をする御方がいない。

「主上、貴妃さまにご挨拶します」

「楽にせよ。今日はそなたらが主役だ。大いに楽しみなさい」

「感謝いたします」

型通りの挨拶を終えたのち、今度は夫婦となる者同士が拝礼する。婚礼儀式はこれで一旦終わりとなるが、花嫁に休む間はない。なぜなら、花嫁にとって最も大事なのは新婚初夜だからだ。
夫婦になって最初の夜、夫が妻の寝所へ訪れてこそ、ようやく身も心も結ばれたことを示すという。
花嫁は夫が訪れても良いように、夜までに色々な準備をするのだ。

燕王府の女官に案内され、与えられた自分の殿舎へと向かう。
美凰が賜ったのは、静妃の住まう蘭華(らんか)殿。