「早く千歳に食べさせたいな」

私は、鞄から覗いている、夜なべして焼いたチョコチップクッキーの箱をちらりと見遣る。

どうせ、『大好きな僕の為に夜なべまでしたんだね、実花子って本当可愛い』とか何とか言って、意地悪な顔をするのが目に浮かぶ。

いつだって、あの王子様には、結局叶わない。

(私って意外と恋愛依存症……?あれ、ちょっと違う、千歳依存症……?)

「……嘘でしょ……」

そこまで考えてから、私は、もはや諦めのため息を吐き出すと、食べかけのオムライスを掬い始める。 


ーーーーコンコン

「はい」

社長かと思い慌てて、食べかけのオムライスの蓋を閉めて、私は立ち上がると、開かれた扉の前で頭を軽く下げた。

「ぷっ……僕だよ」

「え?」

見上げれば、千歳が、涼しい顔をしながら、両手に大きな紙袋を3つも抱えている。

今日は、バレンタインデー。

勿論、中身は、可愛くラッピングされたチョコレートの箱だらけだ。