降り積もった恋心は、大人になっても上手に伝えられないまま、ただ心の片隅で(うずくま)っている。

それでも、私は、どうしても麗夜の側に居たくて、最近は、暇さえ有れば麗夜の専務室に入り浸っている。

「はぁ……」

「どうした?颯に失恋したからか?」

ソファーで、来月発売の『ORION』の自身の写りを確認しながら、ページを捲る。

『今の20代の女子の、欲しい!を全てもってる木野英玲奈』の見出しに、思わず漏れ出た、ため息は、麗夜にまで聞こえていたらしい。

「違うよっ!」

「まさか、あの企画書が、あの颯が熱をあげてる平民女が、書いたものなんて……僕も驚いたよ」

「颯なんて、どうでもいいもん」

そう、颯の恋愛事情に、私は、何の関心も興味もない。そもそも、以前対談で、颯を誘惑して欲しいと麗夜から言われたのだって、麗夜が、颯の副社長という座を望んでいるから、手伝った訳で、颯なんて心底どうでもいい。

顔がいいのは認めるが、あんな俺様全然タイプじゃない。

「私は、大きな瞳の王子様みたいな人がタイプだもん」

もう麗夜は、忘れてしまってるだろうか。思い切って、大きな瞳、とつけたが、麗夜は、顔色一つ変えない。

「この間は、せっかくお願いしたのに、上手くいかなくてごめん、またどこか美味しいお店連れていくから」

この間というのは、颯との対談の事だろう。

麗夜は、パソコンを叩いていた手を止めると立ち上がり、私の頭をポンポンと撫でた。

見上げた、その藍の瞳に見惚れてしまう。

(私が、好きなのは……麗夜なのに……)