「神殿に預けられたけれど、私ほど魔力の強い聖女候補生はいなかったわ。このまま私が筆頭聖女になれば、アーノルト殿下の婚約者になれると思っていた。それを邪魔したのはあなたよね? クローディア」
「私が……? 何のことですか?」
「あなたのせいよ! 私が一番だったはずなのに、突然あなたが現れた。それまで私の魔力の強さに媚びへつらっていた人たちも、一気に態度を変えたわ。筆頭聖女候補は、私ではなくクローディア・エアーズだと言って!」


 突然大声を上げて叫ぶローズマリー様の顔は、まるで何かに憑りつかれたように紅潮している。
 ローズマリー様は、感情をコントロールできなくなると魔力が暴走すると言ったリアナ様の言葉が、私の不安を掻き立てた。


「ローズマリー様……まさか、それで私に呪いを?」
「そうよ! あなたに呪いをかけて魔力を抑えてやったの! 恋占いスキルとか、馬鹿みたいなことしかできない無能の聖女に成り下がったあなたを神殿から追い出すのは簡単だった。それでやっと私が殿下の婚約者になると思ったのに……今度はリアナが婚約者候補ですって? そんなの許せなかった! だから殿下にも呪いをかけたの!」


 ローズマリー様の黒髪が、風もないのにゆらゆらと揺れる。
 そして彼女の体の周囲を、黒いモヤのようなものが囲い始めた。

(あれは、魔力の暴走の前兆……? ローズマリー様をこれ以上刺激してはいけないわ。落ち着かせなければ)


「……ローズマリー様。私はローズマリー様にたくさん助けて頂いたし、あなたのことを心から信じていました。ローズマリー様は、本当はお優しい方だったはずです」
「本当に馬鹿な子ね。私があなたに優しくしたのは、あなたに近付いて呪いをかけるため。あなたの背中の呪いは今に始まったことじゃないわ。あなたが聖女候補生になった頃からずっとかけ続けていたの。何年も気付かなかったなんておかしいわね」


(聖女候補生になった時から、呪いをかけ続けていたですって?)