リアナ様の言葉を聞いて、私は頭に雷が落ちたかと思う程の衝撃を受けた。

 私の家を、親を奪った十年前の洪水。
 あれは自然災害ではなく、ローズマリー様の魔力が暴走した結果だったというのか。

(自然災害にしてはおかしいと思ってた。ほとんど雨も降っていないのに、突然鉄砲水が押し寄せたんだもの)

 グレー一色に変わった村の光景を思い出し、私は眩暈に襲われる。


「ローズマリーの魔力の暴走で、ヘイズ家の屋敷の周りに大雨が降ったんです。屋敷の一角に雷も落ちました。大雨の中で燃える屋敷がとても異様だったのを今でもハッキリと覚えていますわ。被害は私たちの屋敷ではとどまらず、下流の村に洪水を引き起こしたんです……」
「嘘ですよね? リアナ様。あの洪水が、ローズマリー様のせいだなんて……」
「嘘ではないわ。お父様はローズマリーが魔力をコントロールできるようにするために、彼女を神殿に入れたんですもの。でもローズマリーも喜んで出て行きました。神殿で筆頭聖女になればアーノルト殿下の婚約者になれるとでも思ったんでしょうね」


(あの洪水で、一体どれだけの人が犠牲になったと思うの……? それなのに、まだ殿下の婚約者になることを優先して筆頭聖女を目指すだなんて)

 聖女候補生として神殿に入った時から、ローズマリー様は私の心の支えだった。時に優しく時に厳しく、たくさんのことを教えてくれた。
 姉のように慕い、尊敬していたローズマリー様。それなのに――

(あれ……? あの洪水を引き起こしたのがローズマリー様なのだとしたら、もしかして)

 イングリス山で土砂崩れに巻き込まれる直前、確か洞窟の外でおかしな音が響かなかっただろうか。
 どこかで聞いたことのあるような、ドーンという低い音。

 頭の中で点と点が少しずつ繋がっていく。

 十年前の魔力の暴走、雷、洪水。
 そして先週のイングリス山での土砂崩れ。

(どちらもローズマリー様が引き起こしたことなの? 魔力を込められたランプを渡して、私たちの居場所が分かるように目印にしたの?)

 冷や汗がだらだらと流れ、背中の傷にピリッとしみる。
 全てローズマリー様の行いなのだとすれば、私が今やるべきことは何だろう?


「……リアナ様。今のローズマリー様の狙いは、アーノルト殿下の婚約者の座ということですか?」
「もちろんローズマリーは殿下の婚約者になりたいでしょうね。むしろそれ以外は考えていないと思うわ」


 リアナ様に成りすまし、殿下のファーストキスを奪って、そのまま殿下と結婚する。それがローズマリー様の望み。


「リアナ様は、どうなさりたいんですか? なぜ今までローズマリー様の思惑を知りながら、事故の事を黙ったまま……!」
「私だってローズマリーがこの国の王太子妃になるのを止めたかった! あれだけの大災害を起こした本人が、何も知らない顔をして王太子妃になるなんて……私は許せなかった。だから、自分の気持ちを抑えて殿下の婚約者になろうとしたのよ」
「ご自分の気持ちとは?」
「私は……」

 リアナ様は一瞬口ごもり、肩に置かれたガイゼル様の手を振り払った。ポロポロと涙をこぼしながら、ガイゼル様から離れて壁沿いに立つ。
 

「……アーノルト殿下と結婚すれば、ずっとガイゼル様の傍にいられると思ったのよ」