演奏に合わせて踊る二人の姿に、会場中の招待客が見惚れている。リアナ様のドレスがダンスの動きに合わせて揺れると、まるで魔法にでもかけられたような不思議な気持ちになった。


「ディアも踊ってみるか?」
「ガイゼル様、私にダンスなんてできると思います?」
「聖女候補生の時に、貴族のマナーも勉強したんじゃなかったっけ?」
「……それはそうなんですけど」


 ガイゼル様は無理矢理私の腕を引いてフロアに連れ出した。下手なダンスを見られたくなかったのだが、ここまで来ては仕方がない。何とかガイゼル様の足を踏まないように必死で踊っているうちに、私たちはいつのまにか殿下とリアナ様のすぐ近くまで来ていた。

(リアナ様も緊張しているのかしら。近くで見ると、何だかいつもより動きが固いような気がする)

 リアナ様を見ているうちにアーノルト殿下と目が合ってしまったが、つい視線を反らしてしまう。

 お二人のことは遠目から眺めるだけで良かったのだ。こんな近くで、もし私の目の前で殿下がリアナ様にキスをしたら? そう考えると胸が息苦しくなり、私はついダンスの足を止めた。


「ガイゼル様、もう私ダンスは……」
「……」
「ガイゼル様! 聞いてます?」
「……あ、ああ。ダンスをやめたいって?」


 なぜだか上の空になっているガイゼル様は、ダンスをやめてフロアの端に掃けた途端にフラッとどこかに行ってしまった。

(何よ……私のダンスが下手だったから、ガイゼル様のご機嫌を損ねちゃったのかな)

 怪我が治ったばかりの体で動いたからか、私の方もすっかり息が上がってしまっている。フロアではまだまだダンスが続きそうだ。婚約発表は夜会の終わりに行われるだろうから、今のうちに少し休んでおきたい。

 そう思った私は、夜会会場を出て控室へ向かうことにした。