「さっ、頑張ろう!」


 私が独り言で気合いを入れていると、ヘイズ侯爵家のメイドのルースさんが、大きな箱を抱えて部屋に入って来る。


「クローディア様。ガイゼル様が今日の夜会のドレスをお持ちになりましたが、お着替えを手伝いましょうか?」
「こんにちは、ルースさん。ガイゼル様がドレスを……って、私にですか?!」
「ええ。クローディア様はドレスを持っていないだろうからと。先ほど持っていらっしゃいましたよ」


(どうしよう。夜会なんて、生まれてこの方一度も参加したことがないのに)

 今日の夜会もドレスなど着るつもりはなく、使用人に混じってこっそり殿下を見守るつもりでいたのだ。思わぬ贈り物に困惑した私は、ルースさんに助けを求めることにした。


「ルースさん、私ったらドレスの着方すら分からないんです。やはりこれはガイゼル様にお返ししないと……こんな素敵なものは頂けないわ」
「まあ。もうガイゼル様は王城にお戻りになられましたよ。クローディア様はリアナお嬢様と一緒に馬車に乗って王城に行かれるんでしょ? ドレスに着替えて頂かないと困りますよ」


 ルースさんはドレスを箱から出し、私の服に手をかけた。このまま私の着替えを手伝ってくれるつもりのようだ。
 手際の良いルースさんは躊躇なく服を脱がし、あっという間に私は下着姿で鏡の前に放り出される。


「ねえ、私にドレスなんて似合わないわ」
「そんなことありませんよ。えらく扁平(へんぺい)な体ですけど何とかします。でも、さすがにこれは……どうしましょう」


 鏡に映ったルースさんの顔は、私の背中を見て青ざめている。それもそのはず。私の背中の傷はまだ治っていないのだから。


「……このドレスだと背中が開いているので、傷が見えてしまいますね」
「結構酷いですか? 自分では傷の様子が見えなくて」
「そうですね。せっかく白くて美しい肌なのに、傷の周りが黒ずんでしまっています。髪はアップにせずに、おろして大きなリボンで飾りましょう。それできっと傷が隠せます」
「そうかしら……」


 ルースさんは私の背中の傷を避けるように、優しくコルセットを締めた。ガイゼル様が持ってきてくれたという淡い紫色のドレスに袖を通しながら、私はアーノルト殿下とリアナ様の姿を思い起こして深く息を吐いた。