黒髪を全てヴェールの中にしまい込むと、ローズマリー様は私に向かってウィンクをした。こうして髪の毛を隠してしまえば、ローズマリー様とリアナ様の見分けがつかないほどに瓜二つだ。


「ローズマリー様。とても失礼なお願いであることは重々承知しています。本当に申し訳ありません」
「いいのよ。殿下のお命を救うためですもの」
「……アーノルト殿下はリアナ様に恋をしていらっしゃいます。恋する相手の顔を間違えるはずがありません。できれば暗闇などで顔があまり見えない方が」
「殿下の誕生日の夜会で、明かりの届かない庭園に呼び出すのはどう?」
「それなら安心です。ローズマリー様、本当にありがとうございます。明日の占いの結果は、必ずお伝えします」


 私は涙を拭い、ローズマリー様の手を取る。ローズマリー様もしっかりと私の手を握り返してくれた。
 これで一安心だ。あとは誕生日の夜会までの間に殿下が誰かとキスしてしまわないように、しっかりと兜を被ってガードしてもらえばいい。ガイゼル様にそれとなくお願いしておこう。


「ディア、それでは私は明日の占いの結果を待つわ。占いの結果によっては、私がリアナのフリができるように準備しておくわね。そうだわ、占いはどこで行うの?」
「明日の晩、殿下と共にイングリス山へ行きます」


 少しでも月に近いところへ。
 月の光が弱ければ、せっかく水面にうつった運命の相手の顔もぼんやりとしか見えなくなってしまう。


「それが終わったら、ディアはもうこの神殿を出て故郷に帰るのね。また寂しくなるわ」
「殿下の誕生日まではここにいられるように頼んでみるつもりですが、恐らく今日の殿下のご様子を見るに難しいでしょう。ローズマリー様には短い間でしたがお世話になりました」
「殿下の解呪が終わったら、必ずあなたにも手紙を書いて知らせるわ。ねえ、久しぶりに今日は一緒に寝ましょう。明日恋占いをするのなら、ゆっくり休んで力を貯めておかないとね。また回復魔法をかけるわ」


 狭いベッドの上、私たちは二人並んで横になる。
 ローズマリー様は私を優しく抱き締め、回復魔法をかけながら撫でてくれた。まるで子どもの頃のように。

 ローズマリー様の回復魔法に包まれながら、私はアーノルト殿下に抱き締められた時の温もりを思い出していた。