外はもうすっかり夜だ。
 開いた窓からは、ちょうど私の目の前に満月がはっきりと見える。


「雨が上がって良かったです。今晩は月がとても綺麗なので、今日の占いは絶対に当たりますよ」
「月が占いと関係あるのか?」
「はい、恋占いには月の力を借りるんです。今夜は幸い雲一つありませんし、何と言っても満月。こういう時の占い的中率は百パーセントです!」


 そう言って小屋の外に出た私は、小屋の傍にある泉の前に膝をついた。

 泉の水面に映った満月に右手をかざし、そこに全身の魔力を集中させる。
 私に付いて外に出て来たアーノルト殿下が、少し離れた場所に立ってそれを見ていた。


「殿下のご希望通りの結果が出るとは限りません。それでも本当によろしいですね?」
「分かっている。私の運命の相手が誰なのか、それを知ることができればそれでいいんだ」
「運命の相手と結ばれれば、もちろんお幸せになれるでしょう。ですが、運命の相手とではなくても幸せになっている方は沢山いらっしゃいます。恋占いは、愛し合う二人の絆を更に深めるためのもの。二人の仲を引き裂くためのものではありません」
「……クローディア嬢。私の心配をしてくれているのだな。大丈夫だ、どんな結果が出ても受け入れると約束する」


 その言葉を聞いて安心した私は、もう一度右手に力を集中させた。

(さあ、アーノルト・イングリス殿下の運命の相手を映し出して)

 心の中で唱えると、右手の手のひらからぼんやりした光が現れる。光はそのまま手から離れると、泉の水面を覆うように広がっていく。

(この光が消えた後、殿下の運命の相手の顔が水面に映し出されるはずよ)

 しばらく待っていると、徐々に青白い光が弱まってきた。
 水面に現れた女性のシルエットは、満月の光を吸い込みながら徐々に鮮明になっていく。

(このシルエットがリアナ様なのかな? 何だか随分と粗末な服を着ているようだけど。リアナ様は侯爵家のご令嬢って仰ったわよね?)


「クローディア嬢。結果は……? リアナ嬢は私の運命の相手だろうか」
「ええ、少しお待ちください。何だか見たことのある安っぽいお洋服とお顔が映っ……」


 水面の青白い光が完全に消えた。そこに映った女性の姿を目の当たりにした私は、唖然として言葉を失う。

 間違いない。水面に映ったこの顔を、私が見間違えるわけがない。

(ちょっと待ってよ……アーノルト殿下の運命の相手ってまさか)


「……私なのっ?!」