何はともあれ、リアナ様の方も相当アーノルト殿下のことがお好きと見える。二人がお互いに想い合って運命の相手になるためには、悪いことではなさそうだ。私がこの冷たい視線に耐えられれば、の話だが。

 私は凍り付いた空気を溶かそうと、何とか共通の話題をひねり出そうとする。


「私はクローディア・エアーズと申します。リアナ様は、聖女ローズマリー様と双子だとお聞きしました。私は以前聖女候補生をやってまして、その時にローズマリー様にとてもお世話になっていたんです」
「……あら失礼。姉とは今、ほとんど関わりがないんですの。あちらは既にヘイズ家を出ておりますし」


 実の姉のことを「あちら」と呼んだリアナ様の言葉には、明らかに棘があった。再び氷のような冷たい視線でキッと睨まれた私は、緊張してゴクリと息を飲む。
 せっかく空気を和ませようと思ったのに、かえって墓穴を掘ってしまったようだ。

 私たちの間に流れる緊張感を途切れさせてくれたのは、ポツリポツリと降り始めた雨だった。「あら、雨だわ」と空を見上げたリアナ様の頭上に、ガイゼル様が急いで自分の上着を脱ぎ、傘代わりにかざす。

 そこはリアナ様よりもアーノルト殿下が濡れないように優先した方が良いのでは? とも思ったが、よく考えたら殿下は兜を被っているから大丈夫なんだった。


「小雨だしすぐにやみそうだな。向こうにガセボがあるから少し座って休んで行こう。さあ、リアナ嬢」
「はい、殿下」


 殿下が指さした方向には、柱にツタが這う、趣のあるガセボ。
 ガイゼル様の上着を頭にかぶったリアナ様とガイゼル様が前を歩く。私は二人に見つからないようにこっそりと殿下の袖を引いた。


「アーノルト殿下。恋人つなぎはまだですか?」
「すまない。せっかく教えてもらったのに、どうもタイミングがつかめなかった。リアナ嬢の死角から近付いて、一気に決める」
「いや、死角から近付かれたら普通に怖いです。でも今日中に必ず成功させてくださいね。残り一月しかないんですからサクサク進めないと。個人的にじれモダは大好物ですけどね」
「……分かっているよ。私には時間がないと言うことを」


 兜越しにこっそり殿下に耳打ちする私の方を、リアナ様がチラッと振り向いた気がした。私は慌てて殿下から離れ、小走りでガセボに向かった。