「その、ごめんなさい」

がばっと頭を下げる。

「わ、わたしね、ずっと悩んでたんです。すごく良くしてくれるのに、どうしても思い出せなくて。そのことが七生さんを傷つけてるんじゃないかって、申し訳なくて」

「……そんなの、気にしなくていいのに。俺は大丈夫だよ」

「ちょっとひとりになってみたら、また違う刺激があって思い出すこともあるかなって……」

文は、日に日に七生に惹かれていく自分に気付いていた。
失ったものを取り戻せていないのに、新しい自分の記憶に塗りかえられてしまうのが怖い。
昔の気持は、どこに行ってしまったのだろう。
どんなふうに、この人を好きだったのだろう。

「俺が嫌になった?」

七生は表情を曇らせた。

心臓が痛む。

「ちがう。ちがうんです……あの……怖いんです」

「怖い?」

なんと伝えれば良いのだろう。上手く話せない。

「わたしは、あっ……あなたが、好き……なんです。たぶん。そういう、むず痒い気持はあるんです。でも、何かを思いだしたわけじゃない。だから、無くしてしまった気持ちも、ちゃんと思いだしたいなって……」

言葉にしたら、好きという言葉が随分としっくりきた。
あんなにこの人から逃げ回っていたのに、いつの間にか緊張だと思っていた動悸が、高鳴りへと変わっている。

すると、堅かった七生の顔がふっと和らいだ。

「ーーーー好き? 文が、俺を? 好きって言ったよね?」

「え? ええ……たぶんですよ?」

予防線を張る。
こんな短期間で惹かれるのは、過ごす時間が濃いからか、はたまた元からの恋心なのかはわからない。

ちゃんと聞いていてくれたのだろうか。
連呼されると恥ずかしくなる。