七生がじっと見てきたので、文は緊張して口元をきゅっと締めた。

「七生さんは……あの人とは違います。緊張はしますけど、そんな、嫌だなんて……」

好きなのかと聞かれたら、正直まだよく分からない。
でも、彼は惜しみなく愛情を伝えてくるから、一緒に過ごしていると甘い気持ちになる。

今日わかったことは、七生は怖くはないと言うことだ。
むしろ安心する存在となりつつある。

ちょっと前まで、 “よくわからないけれど緊張するから関わりを避けていたと” という対象だったが、今では声で、顔でほっとする。

七生の吐息が、ふっと口元に触れた。
湿った舌の感触に、ピリッと唇が痛む。

七生がなぞったのは傷だった。泣いていた時に強く噛みしめてしまっていたらしい。

「血は出てないけど、痛い?」

「ちょっとだけ」

「……あいつには触られただけ? 他になんかされた?」

「ううん……大丈夫です」

答えると七生はほっとしつつも、恨みがましい声を出した。

「ふん。命拾いしたな。あれ以上手を出していたら執行猶予なしの実刑判決だ」

本気で怒ってくれる七生を見ていたら、くっつきたくなった。
文は七生の袖を掴むと、身を寄せる。
触れていたら、もやもやした心を浄化させてくれる気がした。

「文」

髪を弄りながら、七生は顔を傾けた。
キスの合図に、文もそろりと顔をあげ応える。

七生は最初は気遣うようなキスであったが、すぐにいつものように舌を侵入させてきた。
何度しても慣れないが、徐々に激しさが増す行為を目を閉じて必死に受け止める。

密着する体が熱をもつ。
心地良い時間だった。
七生に対する、気持ちの変化を感じていた。