ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

「親に結婚まで勧められる女性だもの。よく知りたいじゃない」

自分もとそれほど体格差はないのに、まったく力が敵わないことに恐怖を覚えた。

「い、いえ、あの……」

後ずさると、溝に靴の踵を引っかける。

「あっ」

転びそうになった体を賢が支えた。

「旭川さんって危なっかしいんだなぁ」

「すすすすみませっ……」

「今日のはわざとだったりして」

背中を支えていた手が腰に回る。
ゆっくりとお尻を撫でられぞっとした。

(わざとなわけないでしょう!)

「はは、焼肉の匂い」

賢は髪に鼻先をくっつけた。

「や、ちょっと……」

体が密着し、さらに逃げられなくなる。電車はもう間に合わない。
どうしよう。どうしよう。

(七生さん……!)

気持ち悪くて、泣きそうになった。
やっぱり迎えに来て貰えばよかったと後悔したとき、救いの声が届いた。

「文!!」

ぎゅうぎゅうに瞑っていた目をはっと開ける。

(この声はーー……)

「文! 何をしてるんだ離せ!」

どんと体に衝撃が走る。次の瞬間には賢が尻もちをつき、七生の腕の中にいた。
七生の声、匂い。その存在を確認すると、文は夢中でしがみついた。どっと涙が溢れる。

「七生さん……!」

どうしてここにいるのだろう。

「旭川さん……っ」

後ろから片手にスマートフォンを持った三宅が走ってきた。
出発したはずのタクシーが戻ってきている。少し離れたところに止められ、ハザードが点滅していた。

彼女が予め連絡をしてくれていたのかもしれない。
七生は文を一度きつく抱くと、賢を見下ろし睨む。