「ここにこんなにいい男がふたりもいるって言うのに、三宅にアピールするとはさすが旭川。三宅はツンデレだから構ってやってな」

「誰がツンデレですか!」

三宅は珍しく感情を顕わにした。

「わかります……厳しいけど優しいっていうか」

同意すると、殺傷能力がありそうな視線に撃ち抜かれた。
三宅の頬が微かに赤い気がする。

「おかしいですね。厳しさと優しさを兼ね備えているのはわたしも同様なのに、アフターに誘われたことはありませんね」

今朝もでろでろに愛を伝えてきた七生が、澄ました顔をして執務室に入ってきた。
いつから話を聞いていたのか。

「ま、間宮さん……っ」

眼鏡の奥からにっこりと微笑まれ、文は朝の痴態を思い出した。

『……もうダメです。遅刻しちゃう』

『ん、もうちょっと。俺が送るんだしまだ余裕あるから』

軽く、挨拶程度のキスを交わすだけと言ったのに、それはもう濃厚なものをいただいてしまった。
顔が熱くなる。

七生は事務所に一度寄ってからFUYOUに来ると行っていたが、もう用事は済ませたのだろうか。

一緒に暮らしている人と仕事をするなんて、なんて気まずいのだろう。
今までとは違う緊張を感じた。

「三宅さんに振られたようですし、今夜はわたしといかがです?」

怒っているのか、何か牽制されているのかさっぱりわからない。

「……は、いや、あの……」

そもそも、ふたりの関係はどこまでオープンだったのだろう。
婚約までしていたのなら、吾妻も三宅も知っていそうなのだが。
事前に情報を仕入れておくべきだった。

「嫌いだけど、別にわたしは誘い込断ってませんよ?」

三宅が間宮を見据えた。とても好戦的だ。
七生がピクリと反応する。

「先に誘われたのはわたしです。旭川さん、今夜よろしくね」

なんで張り合っているのかわからない。ふたりの間に火花が散っている気がした。