二週間後にパーティーを控え、七生はさらに厳しくなった。
ちょっと慣れてきて、親しみが湧いてきたと思ったのにやっぱり勘違いだったようだ。

仕事のことも勿論だが、それよりもパーティーに向けての研修のほうが恐ろしいというのは、どういう状況なのか。

「旭川さん、これにすべて目を通してください」

会食の次の日に渡された資料は、本に出来るほどの厚みがある。

「なんですか? これ」

「セクシャルハラスメントへの対応方法です。取引先の無理な要求のかわし方についてなど、きっと役に立つでしょう。覚えてくださいね」

表紙を捲ると三十項目もある。

「一章、円滑に断るには。二章、不快にさせない言い回し……? 待ってください、テレフォンオペレーターのマニュアルより厚く見えるんですが?!」

「その他に社交界の基本マナーもたたき込んでください。定時にまでに仕事を終わらせてそこからわたしが指導に入りましょう。吾妻からは残業の許可も貰ってますので」

「な、なんで間宮さんがこんなに……」

ありがたがるべきなんだろうけれど、通常の仕事が終わってから研修なんて精神的に辛い。それも七生が直接だ。

「リスクマネジメントですから、わたしが監修するのは当然です。損失はぜったいに回避しなくてはなりません」

「そうですよね……わたしが失敗したら、会社の評判に直結しちゃうんだ……もしそれで取引がだめになったりしたら……」

最悪のパターンを想像し、胃がキリキリと痛んだ。
大変だけど、七生はプロだ。吾妻も信頼しているから任せている。
教えてくれるのだから、わがままを言ってはいけない。

こういうのも経験だし、きっと自分の力になる。苦手なことも克服していかなくっちゃ。
文はブツブツと呟きながら、一生懸命自分を奮い立たせた。

「俺が最初に目をつけたんだ。横から手を出されてたまるかってんだ」

七生の邪悪な独白は届いていなかった。