「あの、ありがとうございます」

豪勢に並べられた食事を眺めながら、横に座る七生に囁く。

「ん?」

お猪口を口にしながら、七生がこちらを向いた。

「間宮さんが色々教えてくださったので、大山専務に喜んでいただくことができました」

「取引先との円滑な契約も、わたしの仕事の範疇です」

顔を寄せて離すので、ふわりと日本酒が香る。
色気も一緒に漂ってきて、耐性のない文は俯いた。

「でも、ありがとうございます。いつも感謝してます」

八割は説教だが、なんだかんだいつも助けてくれる。

「感謝されていたとは驚きました。わたしのこと怖い筈では?」

「っこ、怖がっては……」

ーーーーいる。
厳しいけれど、悪い人ではない。それははわかる。

けれど、七生と同じ空間にいるだけで、猛獣に狙われたうさぎのような気持ちになるのだ。

それは一緒に仕事をしている今だけではなくて、もう何年も前からそんな気がしている。

(なんかよく目が合うんだよなぁ)

七生が食堂に居ると、その場にいるのも緊張して、予定を変えて外食に切り替えていたくらいだ。
これでも少し慣れた方だ。

「緊張しているだけです。不快な思いをさせていたらすみません」

文も目の前の日本酒をぐいっと一口飲んだ。
かっと熱い物が喉を通って、頭を一瞬くらっとさせる。
しかし酔うわけにはいかない。

次の店を頼まれたら断ると聞いてはいるものの、油断はできない。