吾妻とセットだとまるでアイドルのように人気だが、文はには眩しすぎる人たちだ。

強いて言うならば、以前の放火事件で現場に居合わせた男性が気になっている。
といっても、一年前の事件以来出会うことなどなかったが、力強く優しい素敵な男性だった。
とっさに犯人と火から守ってくれ、自分も怪我をしたのに文の火傷を心配してくれた。

とても紳士的だった印象がある。
残念なのは、眼鏡が壊れて顔も見えなかったし、あの時は意識も朦朧としていたので記憶が曖昧だ。

『大丈夫か』と耳元で囁いた声だけはなんとなく覚えている。
足に火傷をした人で、背が高かったという情報のみ。
社内の人間なのか、社外かもわからない。
耳元で同じセリフを言ってくれたらわかる気がするのだが、まさか検討をつけた男性たちにお願いするわけにもいかない。

ようするに再会は不可能に近い。
もう一度会えたら、恋愛に疎い文でも運命を感じずにはいられないだろう。

「あいにく俺はこのあと予定があってね」

吾妻がいかにも残念そうに言った。なんだかわざとらしい。

「え? え? でも……」

上司に「でも」はないだろうと思いつつも、あんぐりと開いた口が戻らない。

「七生が暇だと聞いているから丁度いい」

いや、いくら予定がなくても顧問弁護士に秘書のスタイリングを任せるっておかしくないだろうか。