(クレームか)

七生はそれを横目にため息をついた。

メーカー本社まで乗り込んで来るなんて、よっぽどだ。
受付嬢と駆けつけた男性社員が、対応に追われる。
来客も多く行きかうこの場所での騒ぎは避けたいだろう。

七生は騒ぎを避けるように、エレベーターホールへと急ぐ。
すると運悪く、女もエレベーターへ向かって走ってきた。

「社長いるんでしょ! 出てきなさいよっ」

ぎょっとして避けようとするが、タイミング悪く上階から降りてきたエレベーターが到着してしまう。

中から、白衣を着た女性社員が出てきた。
大きな荷物を肩にかけている。
ショルダーは肩に食い込むほど重そうだ。
眼鏡に、ひとつにまとめただけの髪。華やかな女性を多く見かける会社で珍しいタイプだ。

エレベーター内に飛び込もうとしたクレーム女と、降りてきた数人がぶつかる。
女性社員はよろけた。

七生は間近に来たクレーム女が、頬から首にかけてただれていることに気がつきはっとした。

警備員が走ってくる。
女はそれを見て余計に興奮した。

男性社員、警備員、白衣の女性社員と自分とで、現場がごちゃっとする。

「ちょっと待っ……」

刺激をしてはいけない。
警備員を制止しようとしたとき、女は手に持った筒を振り上げ床に叩き落とした。

「みんな同じ目に合えばいいのよっ」

それは可燃性の液体だったらしく、飛び散った液体が周囲の自分たちの服に火をつけた。
七生のスーツにも火がつき、脛が痛みに悲鳴をあげる。

悲鳴と逃げ惑う人で現場は混乱し、七生はすっかり巻き込まれてしまった。