――――いや、そうか。

いくら彼が冷酷無情な男でも、目の前で起きた惨劇に手を差し出さないなんてことはなかったのかも。人を救うべく立場の弁護士なのだし。

途中ガツンと頭に衝撃がくる。
くらりとして全身の力が抜けた。

助けようとしてくれた彼に手を伸ばすことも避けることも出来ず、十数段の階段を転げ落ちた文は、思い切り七生に体当たりをしてやっと止まることができた。

七生に抱きしめられ、腕の中で意識を朦朧とさせる。

「……救急車を呼んでくれ! 早く!」

七生のこれほど取り乱す声を聴いたのは初めてだ。

(ついさっきまで、わたしなど視界に入れようともしていなかったくせに)

全身に痛みを感じながら、この男も人間だったのだと変なことを考えながら意識を失った。