ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~


気合いを入れ直して陽キャデビューを試みたが、会社へ行っても顔を合わせるメンツは毎日変わらず。
本社ビルは華々しいというのに、渡り廊下だけで繋がれた別館は、同じ会社かと思うほど雰囲気が違う。

別館は主にラボラトリー施設となる。
文はラボに白衣で引き籠もるという日々で、服装は平凡なまま、化粧も薄いまま。今になっても垢抜けない。

花形の本社に、別館は引きこもり館と揶揄われることもあるが、そんなことはなんのその。夢見ていた研究室に入れたことは誇りであり、華があろうとなかろうとどうでもよかった。


充実した陰キャ生活とでも言うのか、研究に没頭すること二年。
自分の関わった化粧品が世に出たときの喜び、それが世間に評価されたときの感動は言葉には言い表せられないほどだった。

しかし、突然の内示が文を襲う。

研究室から秘書課への異動。
それはさらなる高みを目指し、商品開発に取りかかろうとした矢先であった。

秘書課は相応の学歴とスキルが求められる。
研究専門職と同様、入社時から秘書課候補として採用されることが多い。
しかし、高い倍率を潜り抜けやっと内定を手にしたとしても全員が秘書課配属になるわけでもなく、すぐに秘書の仕事をさせてもらえるわけでもない。

事務を最低一年。総務と経理を経由し経験を積んでからやっと配属される憧れの課である。
さらに特殊なのは、秘書を裏方ではなく会社の顔として採用しているところだ。
ようするに仕事が出来るだけでは駄目で、容姿やスタイルも吟味される。

そんな課に文が異動になったことは青天の霹靂であった。
文は研究員としての採用で、事務職はまったくの専門外である。

とんでもない異動になにかの間違いではと思ったが、人事から聞いた話では「凝り固まった秘書課に新しい風を」という副社長の言葉があったらしい。