ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

「初めて文と会ったのは、本社の放火未遂事件の時だ。文はその場にいて、事故に巻き込まれた人たちを手当てしてくれたね」

「あの時の……? もしかして、七生さんも現場に居たんですか?」

「やっぱり気付いていなかったか。俺も文に手当をしてもらったんだよ」

文は驚く。
じつは、あの事故の話は全然記憶にない。

二日間の徹夜明けで、やっと帰路につけると思っていた時。
本館の企画部に報告書を提出し、そのまま帰ろうとして出くわした。

頭もフラフラしていたし、騒動でメガネが飛び壊れた。何も見えなくて、状況がまったく把握出来なかった。

寝たいとお風呂に入りたいを、エンドレスで考えていたことだけは記憶にある。
スーツの男性に火傷の傷痕について語ったような覚えが微かにあるが、あれが七生だったのか。

「自分も火傷をしたのに、周りの人たちの応急処置を優先していて、みんなが戸惑いと恐怖で落ち込んでいる中で、犯人の女を怖がらずに説得していた。まぁ、説得というより商品の性能説明に近かったけど、淡々と喋っていたのがよかったのかな。度肝を抜かれたし、とても興味がわいたよ」

放火未遂と言っても、火炎瓶の威力は弱かったし大事には至らなかった。
後日社長表彰まで受けて恐縮をした。

「寝ぼけていただけだと思うんですよね……」

「いいんだよ。そこがまた可愛かった」

「か、かわ……?」

嬉しくないとまでは言わないが、あの騒動の中そんなことを思っていたのか。

文は呆れた視線を向けた。