「俺は、文を手に入れるために、とんでもない嘘をついた。宝城には、それに協力してもらったんだ。卑怯なのはわかっていた。文に知られたら、嫌われる可能性もあった。それでも、チャンスが欲しくて……騙した俺を許してくれるだろうか」

今度は文の手を取ると、甲に祈りを捧げるように口づける。

「七生さん?」

一度伏せていた瞳が再び文を捉える。自分に真っ直ぐに向ける真剣な眼差しに狼狽えた。

「文を愛している。その気持ちは疑わないで欲しいんだ」

「え、ええと……」

真っ直ぐな愛情に耳まで熱くなる。
詳しく聞きたいが、通話中の電話が気になった。
案の定、宝城の叫び声が上がる。

『おいこら七生! 何スイッチ入ってんだ! 俺の話を先に終わらせろ』

七生はスマートフォンをとると電源を落としてしまった。

「あ……いいんですか……? 絶対あとで怒られますよ」

「良くはない。けれど、俺は今、文の方が大事なんだよ。話を聞いて欲しい」

文は照れて俯く。
七生の話そうとしていることは、なんとなく察しはついた。

一連の出来事が想像どおりならば、文は滑稽だし、とても恨めしい。
どれほど気を使って、どれほど悩んだと思っているのだ。

「懺悔をするよ」

七生は文を膝の間にいれると、後ろから抱きしめた。

「情けなくて顔が見れないから、このまま話させて」

消沈している七生は珍しい。
ぽつりぽつりと事のあらましを話し出した。

その間、鼻先で髪を擽られたり、耳朶で遊んだり。
その態度は決して反省しているようには見えない。
母親に怒られた子供のようなしぐさは、自分に許して欲しいと甘えているのかもしれない。