タクシーを先に返してしまったので、駅まで徒歩となる。
来た道を数メートル戻ったところで、後ろから機械音がした。

振り返ると、ゆっくりと扉が動いている。車が出入りするのかもしれない。
同時に、その横に備え付けられている扉が開いた。
女の子……といっても、成人しているが、それでも文よりはいくらか若い女が門をくぐり出てきた。

文はその子がすぐに琴音だと分かった。隣にいるのは七生だ。

「ねぇ、七生くん。本当に説得してくれる? お父さん本当に頑固で」

親しげに腕を絡める。

「説得もなにも、琴音と結婚……」

ふと視線を上げた七生が言葉を止めた。

「文? え、なんで?」

琴音がも文に気がつく。
目を真ん丸にさせて、瞬きを繰り返した。
琴音が、七生の腕を掴むのが気になった。

(わたしの手は、ほどいたくせに)

悲しくて、苛々とした。
彼女の実家から腕を組んで出てくるなんて、恋人以外のなにものでもない。

「遊ばれていたというのは、本当だったんですね……」

恨めしい声が出た。
馬鹿にされていたのだ。

階段から落ちた間抜けな女にしめしめと、恋人だったなどと嘘をついて。