がらんとした部屋を寂しいと感じた。
今までも、七生が帰りが遅いことはあったが何日も家を空けるのは初めてだ。

どんなに遅くてもちゃんと帰ってくるのと、留守なのでは全然違う。

「帰国は、いつだっけ……」

カレンダーを見る。
とりあえず四日は居ないと聞いている。
経験したことのない感覚が胸を襲う。
喪失感。
心臓の真ん中が、じくじくと痛む。

「ひとりって、こんなに寂しいんだ……」

七生と毎日一緒にいて、愛されることが当たり前になっていた。

文は、さらに深く反芻し、夜明け前のやりとりを思いだした。

『そんな顔をされると離れがたいな。お土産を買ってくるよ。会えるまでを楽しみに待っていて』

七生は文の頭を撫でながら眉を下げた。
スーツ姿に、スーツケース。

裸のままベッドに横たわる文とは対照的に、すでに仕事中の七生に切り替わっている。

『……わたしは、いつも寂しそうでしたか?』

『え?』

『こんな風に、いつも甘えてお土産を貰っていたのかなって』

これから仕事という恋人に、寂しいだなんてわがままを言うタイプだったとは驚きだ。
口に出してはいないのに、悟られてしまうほど顔にでているとは情けない。

でもそれは、とても新鮮な気持ちだった。
一緒に住んでいるのに、もっと一緒に居たいと思うなんて。

『七生さんは優しいから、出張の度に、こうやってわたしを甘やかしていたんでしょう』

国内の出張だけではなく、海外と日本を行き来するような生活を送っていたはずだ。

それを告げたとき、七生はらしくなく言い淀んだ。
返答に困る場面なんて、初めて見たかもしれない。
時間が無いのに、引き留めて困らせているのだと思った。

なんとなく違和感を感じながら、無事を祈って送り出した。