――え、皇羽さん⁉



お前が…萌々がちょっと嬉しそうな顔で俺を見てくれた気がしたから。


俺の心臓も焦りも。まるでなかったかのように、波がおさまり静かになった。



ムカつく。いつも振り回されるのは俺だ。すげー腹立つ。


けど……


さっきの嬉しそうな顔に免じて、黙って家を抜けたことはチャラにしてやるよ。



「萌々」

「はい?」



「さみぃから、手を貸せよ」

「嫌です。私の手まで冷たくなるじゃないですか…、わぁ!すごい風」

「……ふっ」



風で乱れた髪がお前の視界を塞いでる間に、小さなその手を攫う。



「あ!いつの間に…って、皇羽さん?」

「あ?なんだよ」



「皇羽さんも笑うんですね…。まるで天然記念物を見たような気分です…」

「帰ったら一緒に風呂入るからな」



すぐに萌々が「すみませんでした」と謝る。一緒に風呂に入れなくて残念と割と本気で思ったのは、ここだけの秘密だ。





*皇羽 end*