いきなり、強い光に包まれた!!

 眩し過ぎて、巫女のリーダーや世奈の友達の姿が見えなくなっていく……。

 い、息が、苦しい……。

 この感覚は、あの時と同じだ。
 自分が立っているのか、横になっているのか、もうどういう状態になっているのか訳が分からない。

「世奈! 世奈ーっ……」

 遠のいていく意識の中、かすれるような悲痛な声で、世奈の名前だけを呼び続けていた……。

 人のざわめき……。近代的な機械音……。駅のアナウンス……。
 
(えっ……)

 私は、薄紫色の衣装ではなく、白のジャケットを着ている。
 
(これって、まさか!)

 辺りを見渡してみた……。
 やはり、ここは地下鉄のホームだ。
 
(戻っている! あの日、あの瞬間に、戻っている。
 ということは……)

 すぐに、右隣りを見た。
 
(世奈だ! 世奈が居る!)

 そこに立っているのは、あの時の幸薄そうな女子高生ではなく、私が知っている誰よりも強い世奈だ。
 
(うわっ!)

 あの日と同じようにバランスを崩し、世奈の身体がホームから離れていく。

「キャーッ!」と叫びながら、入ってくる電車に引き込まれそうになっている。
 とても、自ら飛び込んでいくようには見えないが、まさに、あの時と同じ状況だ。

 迷わず、肩に掛けていたバッグを投げ捨て、すぐに世奈が着ている制服の背中を右手で掴んだ! 
 空いている左腕で世奈の身体を抱きとめる。
 
(ヤバい!)

 ズンッと重みが掛かり、一緒にレールに吸い込まれてしまいそうだ。
 電車が入ってくる唸り声が近付いてくる……。
 
(絶対に、死ぬ訳にはいかない!)

 左足で踏ん張り、必死に世奈の身体をホームに戻そうする。
 
(えっ……)

 急に二人分の体重が、嘘のように軽くなった。
 柔らかな白い生地に包まれている。
 
(これは、もしかして……)

 世奈に傾けていた頭を上げて、正面を見た。
 
(イケメン天使だ!
 左の翼が痛々しく折れている真っ白な衣装のイケメン天使が、電車側から世奈と私を支えている)

 ホーム側からも、別の力が加わった。

 後ろのおじさんと、左隣りの男子学生が、私の身体を力尽くで戻してくれようとしている。そのまわりに居た観客者達も、それぞれに持っていた物を投げ捨て、精いっぱいの力を貸してくれている。

 私は世奈を抱えたまま、ホームにドサっと倒れ込んだ。
 数秒あとに、電車が目の前を通り過ぎていく。

 イケメン天使が、世奈に何か話し掛けている……。
 それを聞いた世奈が、ワンワンと泣きだした。

「ヨナ、立派であったぞ!」

 イケメン天使が世奈から私に視線を移し、涙を流しながら微笑んでいる……。

 私も泣いた。
 なんと返事したら良いのか分からない。言葉の代わりに涙が溢れてくる。

 私はずっと、イケメン天使にムカついていた。イケメン天使のせいで、訳の分からない世界で、訳の分からない状況になっていると恨んでいた。
 けれども、今、目の前に居るイケメン天使に、深い親しみを感じている。温かくて、懐かしくて、私のことを大切に思ってくれている本当に兄のようだ。

 イケメン天使が世奈を見つめながら、スーッと消えていく……。

 気が付くと、大きな喝采に包まれていた。
 
(救えた! 世奈を、守ることができた! 悔やみきれないあの瞬間を、やり直すことが出来たんだ!)

 その時、大きな白い羽が宙を舞った。世奈も、その羽を見つめている……。

 ようやく、気付いた! イケメン天使の左の翼が折れていたのは、私達を助けたからだったんだ。

 感動……、感謝……、幸せな感情がいっぱいに溢れ、世奈に抱き付いたまま私も声をあげて泣いていた。