「チヌ、今日はもう疲れたから、部屋で食事してもいい?」

 レモン色の衣装のまま、倒れ込むように床に寝そべった。

「かしこまりました。そのように伝えて参ります」

 チヌが出ていき、王宮の使用人二人が残っているが、気にせず手足を思いっきり伸ばす。

(はぁ〜っ……。今日は、色々あり過ぎて疲れた〜!)

 大の字に寝転がったまま、頭の中を整理してみる……。

 ここは、世奈の前世の世界で……、世奈とイケメン天使は恋をしていて……、私にそっくりな王妃が居る。
 
(私にそっくりな王妃かぁ……。いったい、なんの病気なんだろう?)

 とにかく、早く元の世界に戻った方が良さそうな気がしてきた。

 この世界に私達を連れてきたのはイケメン天使だから、元の世界に戻せるのもやっぱりイケメン天使だよね……。あーっ、でも元の世界に戻ったら、世奈はもう死んでるんだ。
 っていうことは、世奈はこの世界に住んで、私だけが元の世界に戻ればいいんじゃない?
 
(あーっ、頭痛くなってきた。脳を使うのは、やっぱり苦手だぁ……)

 もう眠ってしまおうと瞼を閉じたところに、動揺しまくりのチヌが飛び込んできた。

「ヨ、ヨナお嬢様! 王様がっ」

「えっ?」

 寝そべったまま開いた戸の方に視線を向けると、チヌの後ろに国王の護衛達の姿が見えた。
 
(嘘っ!)

 慌てて上半身だけ起き上がると、なんと、護衛達を割って国王が部屋に入ってきた。
 
(えっ! 国王が、ここに来るとかあるの?)

「そのままで良い。御医を呼んであるゆえ、用心するように」

 国王が私の前にしゃがみ込み、心配そうに覗き込んでいる。

「だ、大丈夫です! ちょっと疲れただけですから」

「慣れぬことばかりで、ご苦労であった。ゆっくりで良いのだ。案ずるでない」

 そんなに優しくされると、キモいと思っていたことがちょっと申し訳なくなる。

「あっ、あの、王妃は、王妃の具合はどうなんですか?」

「心配はいらぬ。強き女人である」

「よかった〜。早く回復して欲しいですよねっ」

「其方こそ、元気が取り柄である。しっかり休んで戻されよ」

 いい人、だと思った。
 でも、元気が取り柄って、ちょっとバカにされたような気もするけど……。

 国王。何不自由ない生活を提供してくれる、申し分のない権力の持ち主だ。魅力的な男だけれども、見た目が……。あの、クソ部長にさえ似ていなければ、この結婚はアリかもしれない。