ふと、世奈のかんざしが目に入り、イケメン天使との関係を聞きたかったことを思い出した。

「ねぇ、世奈。いつの間に、イケメン天使と親しくなってたの? あっ、イケメン天使じゃなくて、私の兄……」

「大丈夫です! イケメン天使で分かります」

 世奈が、また明るい表情で微笑んでいる。

「あの、美咲さん!」

 なんなの? この浮かれた感じ。

「私、ジュンユン様のことが、好きみたいです」

 世奈が、少女漫画にでも出てくるような乙女の顔になっている。

「えっ、そうなの?」

 イケメン天使って、ジュンユンっていう名前なんだぁ。って、そこじゃなくて……。ずいぶんストレートな気持ちを打ち明けてるけど。これは、恋なのか?

「私は巫女だけど、想うのは自由ですよね?」

 やっぱり、巫女は恋愛を禁止されているのか?

「別に、いいんじゃない」

 無責任かもしれないけど、そう言っていた。そんなルールに縛られて恋もできないなんて、バカバカしい話だ。

「そういえば、美咲さんはどうして、このかんざしのことを知ってたんですか? ジュンユン様から頂いたこと」

「それは……」

 私が選んだとは、言わない方がいいような気がした。世奈をがっかりさせたくない。

「そのかんざし、買うところ見てたから……。イケメン天使が、想い人にあげるって言って。あいつも世奈のことが好きなんじゃない?」

「えーっ、そんなーっ! ほんとですかー? 信じられなーい!」

 世奈が、相当に舞い上がっている。これが、胸キュン、ドキドキというやつか? 恋とは、こんなにテンションが上がるものなのか?

 ということは、今までの私の恋はいったいなんだったんだろう?

 恋愛は、それなりに経験してきた。

 私にとっての男とは、なんと言っても経済力だ! デートをするのにもお金が掛かる。プレゼントの額は、私への評価だ。節約だの、倹約だの、ケチケチする男は一緒に居る意味がない。セコいこと考えてる暇があったら、儲けることを考えろと言いたい。

 いつでも、冷静だった。冷静に、男を見極めてきた。だけど……、世奈をこんなにもキラキラ乙女にしてしまう恋とは、いったい何なんだろう?

 さまざまな疑問を残したまま、世奈は部屋から消えていた。