「この世界も、チヌやコウのようないい人ばかりだったらいいけど、第二夫人のような嫌な女も居るからね」

 誰も居ないことを確認しながら、世奈に本音を語り始める。

「あの、さっきの話、本当なんですか? 第二夫人が覗き見って……」

 世奈が、大きな瞳を更に大きく開けて私の答えを待っている。

「ほんと、ほんと。宮殿の中を探ってたら偶然見ちゃったの」

 ちょっと、自慢げに言ってみた。

「えっ、じゃあ、美咲さんは王妃を見たんですか?」
 
(えっ、そっち? 第二夫人のその時の様子じゃなくて、王妃の方?)

「うん……。チラッとね」

「美咲さんに似てました?」

 世奈が、深刻な表情を浮かべている。

「私に? そういえば、似てたような気もするけど……。痩せ細ってて、ほんと幽霊みたいだった」

(なに、なに、どういうこと?)

「王妃は美咲さんの親戚のようです」

「えっ!」
 
(驚きだ! っていうことは、チヌは知ってたんだ)

「国王は側室を持たないと言っていたのに、王妃の希望で美咲さんとの婚儀が成立したとか」

「えっ、王妃の希望?」

「……美咲さんは、王妃によく似ているそうです」

 何かに怯えているのか? 言いにくそうにそう告げると、世奈は俯いてしまった。

「まじ?」

 私も、ゾッとした。
 もしも、万が一、王妃が死んでしまったら、国王の愛情は全力で私に注がれるかもしれない。

(これは、ヤバい! そうなる前に、この世界を退散しなければ! あれ? でも、どういうこと?)

「ねぇ、世奈! 側室を持たないと言ってた国王が、どうして第二夫人と結婚したの?」

「第二夫人は、朝庭で決まったと聞きました」

「朝庭?」

「王家を存続させる為に、国の役人達が決めた結婚だそうです」

「なるほどね〜。そういうことなのかぁ」

 国王と第二夫人、そこに愛はないことを確信した。

「この世界で生きているスヨンという巫女は、私の前世だと思うんです」

 世奈が急に、この世界を見解し始めた。

「前世?」

「なんていうか、記憶の奥にある記憶というか、懐かしい景色や愛しい場面が蘇ったりして……。私は、死ぬ間際に前世の記憶を辿っているような気がしています。ただ、どうして美咲さんが一緒なのか、その謎がまだ解けてません」

(前世なんて、本当にあるのだろうか? だとしたら、私の前世が第三夫人? 全然、嬉しくないわ!)

「美咲さんのお兄さんが、この世界は西暦はっぴゃくと言い掛けました。あとの二桁は聞けませんでしたが、800年代なのだと思います」
「えっ、西暦三桁って……。どんな時代よ! もう想像できない」

「日本で言うと、平安時代あたりだと思います」

 さすが、才女だ。

「平安かぁ」

 平安京しか思いつかないが、知っているようにレベルを合わせてみる。

「とにかく、美咲さんを巻き込んでしまったのは私です。元の世界に帰る方法をなんとしてでも見つけ出すので、もう少し待って下さい」

 世奈が、凄く責任を感じている。責任感の強い子だなぁと改めて思った。

 ならば、何故、人身事故なんて無責任なことができたのか? とツッコみたくなるが、洒落にならないのでやめておこう。

 それにしても、この世界について意欲的に調べている世奈に驚いた。この子が、あのホームに居た女子高生とはとても思えない。

 明らかに世奈は、この世界で成長している……。私なんかここに来てからも、宝石や豪華な衣装に目をくらませる日々だ。