宴も中盤に差し掛かった頃から、第二夫人の視線が妙に気になっていた……。
 こちらをチラチラと見ながら、不服そうな表情を浮かべている。
 
(なんだろう?)

 不意に立ち上がり、第二夫人がこちらに向かって歩いてくる。
 
(やはり、私だ。私を、まっすぐに見据えている)

「巫女には似合わぬかんざしをしておるな。私が失くしたものと実によく似ている」

 私のかんざしを取ろうと、手を伸ばしてきた。
 
(怖い! けれど、渡せない。これは、ジュンユン様からもらったものだ。私の大切なかんざしだ!)

 とっさに、かんざしを手で抑えていた。

「これは、スヨンのものです!」

 透かさず、コウがサッと立ち上がった。

 コウだって、怖いはずなのに……。もう、涙が出そうだ。

「無礼者! 巫女の分際で、私に意見するのか!」

 私のせいで、コウが怒鳴られている。

(どうしよう。 私は、どうしたらいいの?)

「申し訳ございません。無礼をお許しください! ですが、この者は、礼拝堂を出る時からこのかんざしを着けておりました」

 マヤ様が私達を庇うように、第二夫人の前に出た。立場が悪くなることも顧みずに、堂々と釈明してくれている。

 私なんかの為に……。
 申し訳なくて、涙が零れた。

「もう良い! そのかんざし、ちょうど飽きていたところだ。卑しい身分の者と張り合うつもりはない」

(私のものなのに……)

 悔しかった! 疑われていることも、コウを怒鳴り付けられたことも、マヤ様を侮辱されたことも。
 何もできない自分が、本当に情けない……。

 突然、美咲さんがこちらに向かって歩いてきた。

 第二夫人とマヤ様の間に入り込み、
「そのかんざしは、イケメン天使が世奈にあげたものだから!」
 強い口調で、そう言った。

 美咲さんが言うイケメン天使とは、ジュンユン様のことだろう。世奈と言っても、きっと誰にも分からないはず?

「何を申しておる?」

 やはり、第二夫人は、美咲さんが何を言っているのか分からないようだ。

「だから……、そのかんざしは、私の兄上がこの巫女に贈ったものに間違いないの!」

 美咲さんが、この世界の人達に分かるように言い直した。

(だけど、どうして? なんで、美咲さんがそれを知ってるの?)

「何を申す! 巫女が殿方に想いを寄せるなどあってはならぬことだ」

 第二夫人が、美咲さんを嘲笑った。

「はっ? そんな、アイドルじゃあるまいし」

 それでも、美咲さんは負けずに言い返している。
 私は泣いているのに、思わず笑いそうになった。

 美咲さんの言うことは、なんだか面白い……。誰にも通じていないようだが、確かに恋愛禁止だなんてまるでアイドルだ。でも……、この世界で生きている私は恋愛禁止の巫女なんだ。

「そうやって人を見下してるけど、あんたはどうなの? 国王と王妃の密会をこっそり覗き見してたじゃない! そういうのを卑しいって言うんじゃないの!」

 こんなに責められているのに、美咲さんはまだ戦おうとしてくれている。だけど、第二夫人が覗き見って……、美咲さん過激過ぎる。

 そこに居る夫人達も、美咲さんの言葉に驚愕している。

 真実なのか? 第二夫人は、反論できないようだ。
 今までの勢いは完全に消え、血相を変えて庭園から去っていった。

「ヨナ様が、巫女を助けたのよ」「あのヘビン様に対抗できるなんては、勇敢な妃だわ」

 第二夫人は、誰に対しても横暴な人だったのだろうか? 美咲さんが、みんなから絶賛されている。

「お礼、申し上げます」

 マヤ様も、美咲さんにお礼を言っている。

 自由というか、無謀というのか……。とにかく強い! 美咲さんは本当に強い人だ!! 
 弱い私にとって、美咲さんは眩しいくらいに魅力的な人だ。