眩しい強い光……。

 とても、目を開けていられない。

(えっ?)

 急に身体が軽くなった。

(私、死んだの?)

 不思議と、心も少しだけ楽になっているような気がする……。

(だけど、心や身体を感じるということは、結局、意識は消えなかったの?)

 固く閉じていた瞼を、少しずつ開けてみる。

 誰かに抱かれていた。
 目が覚めるような、青い色の民族衣装を着ている。

「スヨン……」

 そう言って、若い男の人が私を見つめて泣いている。

(私より年上?)

 愛しいような懐かしいような、不思議な感覚……。
 なぜか、どうしてか分からないけれど、私の瞳にも涙が溢れていた。

(兄は居ないから、私の先祖? 私を迎えに来てくれたの?)

 辺りを、見渡してみた……。
 まわりには、可憐な黄色い花が咲き乱れている。その向こうに、澄んだ青い空と綺麗な川が見えた。

(もしかして、三途の川?)

 死んでも意識があるとするならば、私は間違いなく地獄行きだ。
 自ら命を絶ってしまったのだから……。

「スヨーンッ」

 今度は少し離れたところから、スヨンと呼ぶ女の子の声が聞こえてくる。
 その男の人は、抱き上げていた私をゆっくりと下ろしながら言った。

「其方はここで、スヨンという巫女(みこ)として生きておる」

(スヨン? 巫女?)

 足元には、白い小石がコロコロと転がっている。

(どこかの川原みたいだけど……。もしかして、ここは天上界?
 絶望の淵に居た私を、神が救ってくれたの?)

「スヨン!」

 声が近付いてきた。
 年齢は私と同じくらい? 元気いっぱいの女の子が、走り寄ってくる。

「あの(もの)がなんでも教えてくれる。其方の友だ」

 そう言って、その人は私から一歩離れた。

(友って……、友達?)

 女の子が息を切らしながら、親しげに私の腕を取る。

「もう、みんな心配してるわよ。早く帰りましょ」

 よく見ると、私と同じような紺色に白の刺繍が入った装束を着ている。

 友達は苦手だ!
 でも、こんな風に親しくされると、少し嬉しくなる。この子、優しそうだし……。

 なんだかよく分からないけれど、私はスヨンという名前で、巫女としてここで生きてるんだ。

 私はその人の言葉を素直に聞き入れ、友といわれる子に手を引かれ歩きだした。
 悲しげに見送るその人の笑顔が、胸に残る……。

「あの方、ホン家のご子息よね? 長身で二枚目だわ〜」

 川沿いの道を歩きながら、友が嬉しそうに私の耳元で囁いた。

「ホン家?」

 聞き慣れない名前に、思わず聞き返してしまう。

「ほらっ、父上は王家に最も信頼されている重臣で、凄い武力を持った一族だって話してたじゃない! スヨン、覚えてないの?」

「王家の重臣……」

 友が、不思議なものを見るような目で私を見ている。

「ちょっと大丈夫? さっき川原で倒れてたようだけど、頭でも打った?」

 完全に怪しまれている。
 とっさに、スヨンではないことがバレてはいけないと思った。

「そうかもしれない。なんだか記憶が曖昧で……」

 そういうことにしようと思った。
 軽い記憶喪失を装うとことにした。

「でも、誰にも言わないで! きっと、すぐに治るから」

 そう言うと、友は深刻そうな表情を浮かべながら頷いてくれた。