その1
麻衣


ついに私は一線を超えたんだ…

今日、相和会の金で雇った”死客”迫田リエは、亜咲さんのバイクを襲撃した

そして、バイクの後ろにまたがったターゲット、横田競子を負傷させた

見事に…

これは明らかな傷害による犯罪だ

そして、心から憧憬していた亜咲さんとの誓いを破り、あの人の心を踏みにじった

もう後戻りできない

私はその現実を自分自身、己に住みつく心の主に突きつけた


...


それはまさに、瞬きする間の出来事だった

私の視界には、転倒したバイクと倒れている横田…

そして…、ヘルメットを外し、横田を抱きかかえようとする亜咲さんの姿…

それらが、私の目に”同時”に映っていた

既にそこには迫田と思われる、バイクの姿はなかった

それはとても不思議な感覚だった

動いてはいるんだが、それでも”一枚の写真”を目にしてるような感じで…

しかもデジャブのように、”どこかで見た風景”のようでもあった


...



私は能勢さんが運転する車に乗り込み、”現場”から撤退し、ヒールズへ向かった

その途中、サイレンを鳴らした救急車とすれ違った

それは、横田の乗る救急車に間違いない

とにもかくにも、”襲撃”は終わった

その時の自分…

確かに胸はドキドキしてたけど、どこか冷めてる気分でもあったかな

それは、冷静な自分とパニクってる自分、半々がにらめっこしてるようだな…