作者ナビゲート解説❸


高原亜咲との別れと相馬豹一からの神髄伝承は、本郷麻衣にとって、晴天の霹靂でした。麻衣は、亜咲が難病を抱える母親の転院で神戸に移ることで、レッドドッグスをわずかの期間で離れるという現実を厳粛に受け止めます。


それは儀式…。そう言えたかもしれません。もっと極論すれば、イカレ道への邁進を潜在的にでも自らに約束させていた麻衣にとっては、卒業式に相当したと…。


この亜咲からの巣立ちと並行して、麻衣は相馬豹一からその神髄を伝播されることになります。それは、相馬の息子を間接的に死に追いやった麻衣からすれば、新たな門を自らにくぐらせた未知への扉を開けた体験だったのではないでしょうか。


かくして、麻衣はそのひと皮を己からはぎ取ります。ここから麻衣は留まることのない怒涛のような妥協なき激走の途に発つのです。


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そしてその途上では幾多の同志、仲間たちとまるで吸い寄せ合うように巡り合い、結ばれて行きます。麻衣の言通り、彼女は相馬とのサシでの昼食会を経たことで、迷いを消し去りフルエンジンがかかった訳ですが、麻衣のアクションはハンパなくドラスティックなものとなります。


そのとっ始めが、岩本真樹子の”面接”となります。麻衣は、真樹子が砂垣にリンチ寸前の仕打ちを受けた廃倉庫に彼女を呼び、なんと、互いの内腿へ煙草の火をあてあい、言わば兄弟杯を交わすのですが…。


このくだりはむしろ、真樹子をその秘め持っていたポテンシャルを爆発させるターニングポイントとして描いていました。しかし、初稿から長い年月を経て、『ヒートフルーツ』が醸しだした物語の展開も当初から大きく様変わりしたことで、この二人による魂の交わし合いは、本郷麻衣が行きつくところまで行く土壌を創造した、重大なステージポイントだったのかなと思えます。


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とにもかくにも、岩本真樹子という格好のパートナーを得た麻衣の目の前はぐんと広がり、彼女を通じて続々と麻衣のロードへの帯同者が現れることになります。真樹子直の伝手では紅組を抜けた方桐ジュン、『ヒートフルーツ』最終盤では重要な役どころを果たすこととなる、アンコウこと三田村峰子の二人が水面下で麻衣サイドの輪に加わります。


さらに、麻衣と真樹子の共同作業では、フリーで燻っていた迫田リエと津波祥子がそれぞれの信条の元、麻衣と行動を共にし、強力な布陣を構えるに至ります。この辺りの過程は、文字通り麻衣の短くもイカレた過激な疾走に不可欠かつ、極めて重要なプロセスを形成していたと実感する次第でして。


そして麻衣は一気に磁力を発しながら、対峙する熱き発熱の女たちと全面衝突の舞台をつくり上げて行くのです。それは魔法のように…。