マッドシンパシー/その1
麻衣



亜咲さんとの別れ…

この出来事は見方を変えれば、イカレた私が巣立つということに等しい

脱皮…

そう言える

そうよ、私はついにイカレ街道を走る

そのエンジンは相馬さんに会ってきて、全開となった

もう躊躇などない

決した後には戻らない

いや、戻れない…


...


その日の迎えは倉橋さんだった

午前10時過ぎには部屋を出て、会長の私邸を兼ねた総本部に向かった

ここからは、車で約30分ってとこかな

”あそこ”に行くのも”あれ”以来か…

車内では倉橋さん、珍しくいろいろ話しかけてきた

”晴れてよかってね”とか、”今日の服、いつもと違う感じだね”とか、”昨日は眠れたかい”とか…

私は、何故かクスクスと、笑いが止まらず、ろくに受け答えもできなかったよ

この人強面だし、こんな言葉口にするガラじゃないのに、普段は

とにかく、この時は、おかしくてしょうがなかった

そしたら、「なんだよ、クスクス笑ってばっかりで」って、倉橋さんも少し笑ってるよ

そう言えば、しばらく、こんな笑い方したことなかったな


...


あれ以来、私なりにしんどかった

やってることは、世間からすれば、クレージーなことだ

そんなことでも、夢中で、必死で事に当たってきた

とにかく、プレッシャーをはねのける毎日だったさ

そのこと、剣崎さんには、良く知ってもらってる

その剣崎さんの片腕的存在だからさ、倉橋さん

それこそ、剣崎さんとは以心伝心だ

だから、今日のおしゃべりな倉橋さん、剣崎さんのシグナルを受けてのことなんだろう…

たぶん、今日は”特別”な日だということで、気をほぐしてくれてるんだと思う

そう言えば、今回の”セット”は、剣崎さんが妙に乗り気だったんだよな

第一、”息子さん”の四十九日の法要がまだ終わってない

”それ”、済んでないのに、まずくないのってニュアンスのボール、投げたんだけど…

こういう”業界”は、特にそういうこと、大事にするし

剣崎さん、会長の体調がまた悪くならないうちにとか、梅雨に入る前にとかって、早いほうがいいって…

なんか、あえて、”それ”前にって感じもしたんだけど…


...


30分かからず、車は総本部の門をくぐった

ああ、着いたわ…

一か月半前、ここに着いた時は、生きて出られないかもって思ったもんだが…

だんだん、頭に甦みがえってきたよ、あの時のこと…