その9
麻衣


あの時…、なんであんな言葉、口にしたんだろうか…

”お姉ちゃん”

小声だったから、亜咲さんには、はっきり聞かれなかったと思うが…

惜別の心理状況って言うのは、あんなものなのかな

私はその夜、心の中でつぶやいた

”亜咲さん、ゴメンね、こんな中途半端な終わらせ方させちゃって…”


...



亜咲さんがドッグスを抜け、この地を去る…

それは間違いなく、私にとっての転機だった

3、4か月はレッド・ドッグスを仕切ってくれると踏んでいたんだけど…、想定外だった

その間はいわば、”静かに”してるつもりでいたし

こうなりゃ、一気に行くしかない

そうなったよ

一番ワリ喰うのは、私に近い連中と、南玉の面々になる

私が行動開始となったら、一夜で天国から地獄ってことになるかもだし

こうなったらやってやる

遠慮する”理由”、無くなったしな…

私はそう胸に誓ったよ


...


その翌日…、相馬会長と総本部の庭で、二人きりの昼食会だった

そこで私は相馬さんの神髄を授かることになる…

そして結果として、私から迷いが消えた

すなわち、元々持ちえていた非情の心を解放させることに躊躇を捨てるモードチェンジが叶ったってこと…

そう解釈できた

でも…

このことは、亜咲さんとの誓いを破ることを意味した…

私は心の底から憧憬するお姉ちゃんを裏切る道を選んだんだ

我が心の主を挑発し、生き切ること故に…

亜咲さん…

ゴメンナサイ

かくして私の妥協なきマイロードは疾走の途に発った