麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮

その5
剣崎



俺は立場上、若の四十九日法要の件も考慮し、少し伸ばしたほうがと進言するつもりだったが、なぜか、それは口に出さなかった

若はこの春、亡くなった

病院から飛び降りての自殺だった

その自殺の原因、いや、あえて遠因としたいが、それの張本人が他ならぬ本郷麻衣だ

その、実の息子を自殺に追いやった、憎むべき少女を今、全面支援している

それは体の関係とか全くない、なんとも異様なシンパシーのつながりから…

俺は、この二人がある意味、命を張って対峙していた現場にいた

親子以上に年の離れた二人のそのやり取りは、本当に異様なものだった

麻衣にしても、自分の後ろ盾となっている人物の息子に傷を負わせ、間接的に死に追いやった

その負い目は強いだろう

だから、むしろこの時期、”それ”がいい

瞬間的に、俺はそう判断した


...



「じゃあ、早急にセットさせますよ。食事はどうされますか?」

「ワインと懐石だ。それに、川魚、若いもんに釣ってこさせて、その場で焼けや。麻衣には、新鮮なフルーツをたんまり用意しとけ」

「わかりました」

本家付きとなって約二年、こんなに心のなごむ”セット”は、初めてだ

はっきり言って、麻衣の今日の砂垣への恫喝は、この道のプロも唸る程の出来だった

ハンパもんとはいえ、ここらのガキの間では、幅を利かせている年長の男だ

そのヤツに、あれだけの凄みを利かせる度量には、ほとほと驚く

”後ろ盾”を得ても、単なる虎の威を借りる狐に納まっていない、あの気構えは見事と言うほかない

フフ…、砂垣の野郎は麻衣が相馬さんの血筋だって、すっかり信じ切っていたようだし

俺の下手な芝居も、まんざらじゃなかったのかもしれないが(笑)

あの後、勝田が会長とのいきさつを話したようだから、ヤツのことだ、今後、麻衣にはイエスマンで徹底するだろう



...



たしかに、麻衣はああいった手合いには容赦ない

だが一方で、憧憬している先輩とかには、どうも過度の感情が入るところがある

フフフ…、そりゃ16の少女だ、そんなのごく当たり前だがな

が、そんな普通の感情さえ、今の麻衣には苦しみなんだろう

俺には不思議と分かるんだ、性別とか年齢差を超えて

だから、そんな状況のアイツが、相馬さんと二人で食事を共にする

これは、麻衣にとって”意味”のあることだ

さっそく、明日にでもアイツに伝えてやろう