麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮

その4
剣崎



本部に戻り、会長に今日の報告をした

砂垣に対する麻衣の対応の一部始終を告げると、会長はもう嬉しくてたまらない様子だった

この人と出会って20年超、時折感じることだが、こういう時の会長のその表情は、やんちゃな少年そのものだ

「是非、会長にも麻衣の不遜な立ち振る舞い、お見せしたかったですよ」

「フン、見なくてもわかるさ。麻衣のその時の顔がはっきりとな…。ハハハ、それどころじゃないぞ。俺にはな、その時の麻衣のハラの底まで顕微鏡で覗くように、見えるんだ。いいぞ、アイツはなあ…」

すでに会長は、相和会のトップという立場を忘れた、かなりイカレ気味の相馬豹一個人、その人だった

「いいか、剣崎!どんどん焚き付けてやれ、麻衣の闘争心をよう。経費はいくらでも付けてやってな、場合によっちゃ、”権力側”も使っちまえ!」

は…?まったく、何を考えているのか…

この人だけは、時々わからなくなる

もっとも、この人に仕えた人間は皆、そう思っているのだが、結局、この人に魅せられて着いて行ってる

何とも言い難い、常人の感覚を超えた一種の”狂気”が、我々を妙に惹きつけるんだ

それが、この人の真骨頂ということだ


...


「会長、それにしても、顔色いいですね。検査の結果、良かったんですか?」

「ああ、あのヤブ医者め、ようやく酒飲んでもいいとぬかしやがった。こっちは、とっくに浴びるように飲んでんだ、ハハハ…。だが、ここんとこ、やけに調子いい」

「そうですか、それはよかった。実は、麻衣も会長の具合は気にしてましたからね」

「ほう…、あの野郎、そんなとこまで気ぃ、回すガラだったのかよ!ハハハ…。よし、剣崎よ、麻衣と一緒にメシ食おう。ここの庭で、そうだな、昼メシがいいな」

「いいですね。実は、麻衣も会長に会いたがっていましたので。今日の報告なんかも、直接伝えたかったと思いますよ。バックアップのお礼も、きちっとしたいと言ってましたし…。それに…」

「うん?それにって、なんだ?」

「最近、よく口にするんです。こういう時、相馬会長なら、どう考えるだろうか、どのように行動するんだろうかと…。盛んに聞いてくるんですよ、俺に。今日も、難しい場面をいろいろくぐってきたようで、アイツなりに、悩んでいるようです…」

「…」

「俺からもお願いしますよ。体の方、大丈夫のようであれば、二人で食事、やってやってください」

「なら、早い方がいいな。梅雨に入る前だ。せっかくだから、晴天の元でな。体の方がシャキッとしてるうちに、麻衣とはいろいろ話しておきたい…」

会長は一瞬だが、珍しく、しんみりした表情を見せた