私の大切なのもの/その1
麻衣


私の高校生活は始まった

それは自分自身の中にずっと住みついている心の主をけしかけ、毎日を生き切ること…

それって…、間違いなく言えるのは、その辺の女子高生とは異次元の生き方になる

まあ、そう言うことさ

で…、早速そんな状況が巡ってきた

って言うか、私が導き呼び寄せたってことかもね

何たって、一発逆転劇だった

とにかく、私は相和会の力を得ることができたんだ

重い”代償”は背負ったが、何のことはない

やってやる!


...


私の”担当課長”は、剣崎さんらしい

あの夜…、相和会総本部からそのまま剣崎さんの経営する”ヒールズ”というスナック風の店に連れられた

そこで私たちは、奥のボックス席で”打合せ”をした

以降、数えきれないほど行うことになる二人だけの”異様な会議”は、これが最初だった

「とりあえず、当面の資金だ。これでまずは、すぐに族を結成しろ。人選とか諸々のことは自由にやれ。お前たちの勢力争いのだいたいは承知してる。墨東会とかってのが、ガサガサ動いてるらしいな。まあ、俺は俺で”絵図”をかいておこう」

いきなり、封筒に入れていない剥き出しの一万円札の束を私の前に置いて、剣崎さんはそう言うと、缶ビールを一気に飲み干した。

私は、まず、どうしても聞いておきたかったことを尋ねた


...


「あのう、相馬会長は息子さんをあんなことに追いつめてしまった私に、どうして力を貸してくれるんですか?」

「お前はその代償を負うことで、取引が成立した。それだけのことじゃないのか?」

「でも、私、あの場で殺されても不思議じゃなかったし、その相手のこんな小娘にいくらなんでもお金とか、援助してくれる理由が…、さっぱりわからなくて…」

「俺にはわからん。機会があったら直接、聞いてみたらどうだ?まあ、おそらく”それなりの理由”はあってのことだろうがな、ハハハッ…」

剣崎さんは初めて白い歯を見せて笑った。もっとも、ニコッとではなく、ニヤッとだったが

さらにビールを一口飲んで、ソファにもたれて言った


...


「うちの会長は昔から、誰も考えつかないようなことをする人だったからな…。若い頃の、狂気と伝説を知ってる俺たちからすれば、今日の”若の件”もさほど驚きはない。世間からすれば異常だけどな、間違いなく…」

私は身を乗り出すようにして、聞いていた

そのあと、剣崎さんは今後の細かい取決めとかをいろいろと話してくれた

週2回、ここに連絡することとか、運転手を兼ねた若い人をつけるとか…

それに、この店のそばでアパートも借りてくれるらしい

私にとっては急転直下の逆転劇だったが、別に有頂天になってはいなかった

一時は”死”も覚悟したけど、なぜだか意外と冷めていた

しかし、相馬豹一という、とてつもない”奇人”に出会えたことは、感動ものだった

かくて、私は強大なバックを得て、”大海原”に出ることとなる