その8
麻衣



私が”了解”の意思を告げると、相馬会長は”念”を押した

「地獄を往復することになる。本気なんだな?」

「本気です」

しばらく沈黙が続いた間、またも二人は目を見つめあっていた

「よし、取引成立だ。息子のことは忘れる。もちろん、警察沙汰にもしねぇ。その辺はうまくできる。安心しろ」

会長は立ち上がり、「剣崎いるな?入ってこい」と大声を上げた

すぐに、さっきのスーツ姿の幹部、剣崎さんが部屋に入ってきた

「話はついた。定男の件は内々で処理だ。それで、今日からコイツは俺の遠縁の娘だ。やりたい放題で支援してやることにした。お前、見てやれ」

剣崎さんは事務的に”話”を聞いて、指示に従っているようだった

...

話が終わると、剣崎さんは私を庭に連れて出た

既に会長の姿はない

やがて、久美たち3人が数人のスーツ姿に囲まれ、庭に現れた

しかし、それは工場からの時とは明らかに違う

あの時は”連行”だが、今はエスコートといった感じだ

「麻衣ー、無事だったのー?わー!」

久美が私を見つけると、涙声で駆け寄ってきた

ほかの2人も一緒に走ってくる

3人とも、ジャージ姿に着替えていた

「私たち、助かったの?家に帰れるの?」

「終わったよ、解決だ。もう帰れる」

私が手短に答えると、剣崎さんは周りに指示して車の手配をした

「お嬢さんたちをお送りしろ」

3人は不安そうな顔つきして、まだ怯えてる様子だったので、私は言った

「大丈夫だ。ちゃんと送ってくれるから。ただ、今日のことは絶対内密だぞ、いいな」

「うん、誰にも言わないよ。絶対に!麻衣は?一緒に帰れるんでしょ?」

「私は寄るところあるから。心配いらないから。月曜日に学校で会おう」

3人はスーツの男たちに丁重に”送りの車”へと案内され、本部を後にした

「これから、俺の店で今後の打合せをしよう」

剣崎さんはそう言うと、自分の運転で私と店に向かった

ここから始まったんだ、こうして…

私は、昨日までは想像もし得なかった道を”疾走”することになった